想定読者層(ターゲット)

  • 自然や地域資源を活かした体験を提供している方
  • 観光、アウトドア、一次産業に関わっている方
  • 飲食・宿泊など研修を支える仕事をしている方
  • 企業向けの仕事に挑戦してみたい方

先日、第一回LNT講座が開催されました。さまざまな立場の人と同じ場に立ったとき、何を優先し、どう関わるのか。この体験を通して、「正解のない状況で考え続けること」の難しさと学びを振り返ります。

正解のない状況で、どう意思決定するか

はじめまして!
多摩地域でインバウンド向け旅行事業に携わる立場として、LNTのインストラクター講座に参加しました。講座期間中は、全員がワークショップ限定のあだ名で呼び合うことになっており、私もここではその名前である「さっちゃん」としてお話しします。

年齢や業種、役職といった肩書きを一度外し、フラットな関係性をつくること。あだ名で呼び合うという小さな仕掛けが、参加者同士の距離を一気に縮めていたように感じます。名札もあえて用意されていなかったため、互いに顔を覚え、声をかけ合うことが自然に生まれていました。

参加者の多くは、日頃から自然をフィールドに活動する事業者です。
講座では、LNTの7つの原則の中から一つを選び、他の参加者に対して20分間の模擬授業(ティーチング)を行います。私が担当したのは「最小限の焚火の影響」と「他のビジターへの配慮」でした。

自然環境への配慮がテーマではありますが、実際に向き合っていたのは、チームでどう意思決定するか、どう関係性を築くかという点でした。最終日には、インストラクター資格の取得にあわせて、「この学びを今後どう活かすか」というアクションプランも発表します。

私が掲げたのは、「地域型インバウンドガイドとして、LNTの理解を通じて、紹介する地域へのダメージをどう最小限にできるか」というテーマです。ただし、この言葉がはっきり形になったのは講座の終盤でした。最初から明確な答えを持っていたわけではなく、議論と実践を重ねる中で、少しずつ自分の立ち位置が見えてきた、というのが正直なところです。

立場の違いの中で、どう声を出すか

議論の中で印象的だったのは、「立場や経験値の差がある中でどう発言するか」という点でした。

実際、同じチームになったメンバーとはアウトドア経験や知識量に大きな差があることは明白でした。それでも、それを理由に発言を控えないよう心がけました。現実のフィールドでは、私のような知識レベルの人間も含め、多様な立場の人が共存しています。だからこそ、間違いを恐れずに考えを言葉にすること自体が意味を持つと感じました。

一方で、限られた時間の中で意思決定を迫られる場面では、当然ながら経験豊富な有識者の意見がより重く受け止められる局面もあります。これは自然な力学でもあり、実際に議論を重ねる中で、最終的な判断に至る知識の厚みや重みも実感しました。

それとは別に、チーム発表後のフィードバックの時間は、正解を導く場ではなく、「個人の視点を率直に持ち寄る場」でした。この時間において、大吾さんは繰り返し「恐れずに意見を言うこと」を促していました。他の人に厳しい意見を伝えれば、いずれ自分にも返ってくるかもしれないと考えると発言は慎重になります。それでも挑戦してみよう、と背中を押されました。

そこで紹介されたのが「ハンバーガー方式」のフィードバックです。まず優れていた点(バンズ)を伝え、そのうえで改善点(パテ)を挟み、最後も肯定的な言葉で包む。

実際にやってみると、バンズは比較的出しやすいのですが、核心となるパテ——「何が足りないのか」「どう改善できるのか」を具体的に言語化することは容易ではありません。その部分に苦戦している場面も多く見受けられたように思えます。

この経験を通して見えてきたのは、配慮とは意見を抑えることではなく、相手や状況を理解した上で、「どう伝えるか」を考え続ける姿勢だということでした。これは、そのまま企業でのチームビルディングやリーダーシップにも重なります。

答えを教えない研修が、考える力を引き出す

LNT講座の特徴は、講師が「正解」を示さないことです。問いだけが投げかけられ、参加者同士の対話で考えを深めていきます。最初は戸惑いましたが、「判断の軸」を持つことで、状況に応じて選び直すプロセスそのものが学びになります。

マニュアルや成功事例が通用しにくい現代のビジネス環境において、この「考え続ける訓練」は非常に実践的です。

「正しさ」が分断を生まないために

講座の最後に印象的だった言葉があります。

「Don’t be a LNT police(LNTポリスになるな)」

知識や正しさを手に入れた途端、他者を裁くために使ってしまうことがありますが、LNTは対話と共通理解を重ねることを何より大切にしています。完璧を目指すのではなく、関わり続けるための態度を育てる。この考え方は、持続可能な組織づくりや長期的なチーム運営にもそのまま応用できます。

自然の中で、組織のあり方を問い直す

この講座を通して私が持ち帰ったのは、自然の知識以上に、

  • 正解のない状況でどう判断するか
  • 異なる立場の人とどう合意形成するか
  • 配慮と主体性をどう両立させるか

という、企業活動に直結する問いでした。

自然をフィールドにした研修は、日常業務から一度距離を取り、こうした問いに向き合うための「安全な実験場」になります。自然と人、地域と企業。その関係性を考える体験は、チームや組織のあり方を見つめ直すきっかけになるはずです。

※LNTについては、Leave No Trace Japanの公式情報もあわせてご参照ください。